Fujifilm X Labo

Fujifilm Xシリーズの研究を気まぐれに行う。

XF16mmF2.8 (XF16mmF1.4との比較)

Bottles on Hanging Shelf in a Bar

X-T3, XF16mmF2.8 R WR, 1/125 sec at f/2.8, ISO160

今回はXF16mmF2.8をXF16mmF1.4と比較しながら軽くレビューしてみる。XF16mmF2.8は基本的にコンパクトでハンドリングしやすいレンズだ。サイズ重量やF値などスペック表に書いてある部分に関してはほぼ省略。

 

解像力
XF16mmF2.8の解像力は、XF16mmF1.4と比較すると、目に見えるレベルで落ちる。解像力に関するXF16mmF2.8の問題点は大きく二つある。一つ目は、純粋に周辺や四隅の解像力があまり良くないこと。これは後述する電子補正の悪影響だろうか、どんなに絞っても改善しない。二つ目は、近接での開放の描写がソフトになること。f/4〜5.6まで絞ればカッチリ写るようにはなる。しかし、そこまで絞るとボケを活かした表現はかなり困難になってしまう。

それぞれ50枚くらいずつ遠景近景撮って描写を比較、まとめたものが下記テーブル。

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XF16mmF2.8 vs XF16mmF1.4 解像力比較概要

 比較写真があまりにも膨大になるので、代表的なもののみ掲載する。

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遠景比較ポイント

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遠景、中央比較@f/5.6

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遠景、右端比較@f/5.6

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遠景、右下隅比較@f/5.6

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接写比較ポイント

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接写、中央比較@f/2.8

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接写、中央比較@f/4.0

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接写、周辺比較@f/5.6


ボケ
XF16mmF2.8でボカした写真を得る条件は限られるが、ボケ味は悪くない。XFレンズというよりもどこかX100シリーズに似ている柔らかいボケ。自分は好み。

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X-T3, XF16mmF2.8 R WR, 1/60 sec at f/2.8, ISO640

歪曲収差
XF16mmF2.8の一番大きな問題は強烈な樽型の歪曲かもしれない。ここまで激しく歪む単焦点レンズは中華レンズ含む他のメーカーを探しても殆ど見つからないと思う。撮って出しJPEGやメジャーな現像ソフトならば歪曲は自動で電子補正されるが、その補正によって画質が低下することは言うまでもない。

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XF16mmF2.8 歪み補正前と補正後

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XF16mmF1.4 歪み補正前と補正後

画角
XF16mmF2.8はXF16mmF1.4と比較して、画角が広い。電子補正前だと、XF16mmF1.4よりもXF14mmF2.8の画角にかなり近づく。レンズの名前がXF15mmF2.8でもおかしくない。

 

周辺減光
XF16mmF2.8の周辺減光はかなり大きい。電子補正で目立たなくなるが、当然ノイズは増える。

 

ハンドリング
XF16mmF2.8の絞りとフォーカスリングは硬めでねっとりとしたクリック感があり、かなり高品質でXF16mmF1.4よりもずっと良い。サイズは他のコンパクトプライムシリーズよりも更に小さく、X-T30などと組み合わせれば、機動力は非常に高い。

 

結論
軽い小さい画質もそこまで悪くはない。しかし、5万円弱のFujinon単焦点レンズとして考えると、性能には複数の疑問符がつく。少し大きくなっても開放F2.0と歪みの抑制を実現して欲しかった。開放f/2.8はボカせる条件がかなり限定されるため、背景を整理して作り込む技術がF1.4よりも高いレベルで求められる。広角初心者ではなく広角レンズに慣れた老練ユーザーにこそ相応しいレンズかもしれない。(ということで自分にはF1.4が良さそう)

XF35mmF1.4は風景が苦手?

Nagasaki Sea in Japan

X-T2, XF35mmF1.4 R, 1/680 sec at f/8.0, ISO200, Details Enhanced by ACR.

XF35mmF1.4は風景や遠景が苦手という評判を見かけることがある。一体なぜだろう?

 

理由のひとつは、レンズの問題と言うよりもX-Trans RAWのデモザイキングの難しさが関係している。これはAdobeがディテールの強化を導入したことで問題はほとんど解決されたと言っていいだろう。

 

もうひとつ考えられる理由は、富士フイルム自身が遠景が苦手であることを匂わす記事を書いているためだろう。

fujifilm-x.com

(XF35mmF1.4は)近接から中間距離を常用域とし、そのRangeに配置された立体物が、センサー性能の極限まで写るように作られている。
もちろん、そのために諦めたものもある。いわゆる画面中心から周辺まで、均質的な写りはしない。しかし、このレンズで平面的な被写体を撮ることは、おそらく殆ど無い。

このOne lens one story、なんとも乱暴な話である。35mm判換算50mmは人も風景も何でも撮れる画角だし、実際は開放側ばかりではなく絞って平面的な被写体を撮ることだって普通にあり得るだろう。

 

最後の理由は、先のMTFスコアの話と重なり、LensTip.comのMTFチャートの成績が非常に悪いからだろう。このXF35mmF1.4の成績は富士フイルムのラインナップの中で一番安い廉価キットズームXC15-45mmすらも下回るプアなものだ。

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XF35mmF1.4 MTF Chart, 引用元: LensTip.com

 

しかし、である。先の通り、これらMTFスコアはあまり意味をなしていない場合が多々ある。実際に、絞って遠景を撮ってみればすぐに分かるだろう。XF35mmF1.4 Rはいわゆる画面中心から周辺まで、均質的に極めてよく解像するレンズである。以下にクロップ画像を載せるが、Flickrからフルサイズをダウンロードして等倍鑑賞することも可能。

"数字"や"ストーリー"よりも"写り"。

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画面中央付近クロップ

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画面左下隅クロップ

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画面右端クロップ

LensTip.comのMTFチャートで異なるレンズを比較できるか

「ズームレンズAは単焦点レンズBよりも解像力が高いレンズだ。その根拠はレンズテストサイトのMTFスコアの比較である」最近、たまにこんな感じでレンズを比較評価をしている人を見かけることがある。・・・果たして、それは本当に有効な比較なのだろうか?検証&考察してみたいと思う。

LensTip.comOpticalLimitsというサイトをご存知だろうか?*1あえてこのページを表示した人の多くはきっとご存知なのだろう。彼らは数多のメーカーのレンズについてレビューを行い、各パラメータごとに定量的なデータを出している非常に有意義で優れたウェブサイトだ。自分もよく参考にさせていただいてる。 

さて、LensTip.comによるとXF16mmF1.4とXF10-24mmF4のMTFチャートは以下の通りだ。

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XF16mmF1.4 MTFチャート 引用元:LensTip.com

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XF10-24mmF4 MTFチャート Center 引用元:LensTip.com

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XF10-24mmF4 MTFチャート Edge 引用元:LensTip.com

このデータを見る限りだと、確かにf/8まで絞った場合、数字上はミドルクラスズームレンズが大口径単焦点を上回り、画面全域でより解像するということになる。

 

そしてXF16mmF1.4に関しては

Our problem? For such a fast ‘prime’ it is not enough. We wanted to see results of at least 72-73 lpmm. For instance the Fujinon XF 23 mm f/1.4 R was able to exceed slightly a level of 70 lpmm and a bit slower Fujinon XF 14 mm f/2.8 R could reach 72 lpmm. Those several small lpmm are the reason why we call the performance of the Fujinon XF 16 mm f/1.4 R WR only good, not excellent.
A bit better results on stopping down are the only thing lacking here. It would be nice if the lens exceeded 55 lpmm or at least brushed against it; after all the 1.4/23 model managed that much.
To sum up the Fujinon XF 16 mm f/1.4 R WR fared very well in the frame centre and on its edge. It is not an outstanding device, if it was it would have results by 3-4 lpmm higher

このように記述されており、「MTFスコア(空間周波数)が低めで単焦点の割にはそれほどシャープではない」レンズとして評価されているようだ。

ところが、実際の撮影ではこのような結果にはならないXF16mmF1.4は他メーカーも合わせた同一画角のレンズの中でもトップクラスの解像力を持っており、富士フイルムの広角ラインナップの中ではおそらく1番か2番に位置するだろう。ズームレンズとの差は比較にならないレベルなのだ。百聞は一見にしかず、以下にそれぞれのレンズ@f/8で撮影した比較を示す。クリックで拡大可能。*2

 

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画面中央(左がXF10-24mmF4、右がXF16mmF1.4)

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画面左下(左がXF10-24mmF4、右がXF16mmF1.4)

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画面右端(左がXF10-24mmF4、右がXF16mmF1.4)


あいにく撮影日が違うため、厳密な比較は出来ないが、それを差し置いてもXF16mmF1.4はXF10-24mmに対してベールを一枚脱いだかのごとく良く解像するのがわかると思う。*3


このような、テストサイトのMTFスコアと実際に写真を撮った場合の解像力との乖離は、他のレンズに置いても多々見られる。なぜこのような事が起こるのかはよく分からないが、怪しい点はいくつかある。

1.レンズには個体差があり、その個体差が数字に大きく反映される可能性がある。これを考慮するには複数個体をテストする必要がある

2.テストにはチャート&三脚設置やマニュアルフォーカスなど人力でやっているの工程が含まれている。ここでのピント合わせのほんの僅かな違いが数字に大きく反映される可能性がある。

3. 富士フイルムのレンズに関してはX-TransのRAWをデモザイキングしなくてはならないが、昔のdcrawでまともなデモザイキングを行えていたか疑問。

4. 自動化されたテストがブラックボックスであり、きちんと機能しているのか不明。

5. etc

レンズテストの素人が何を言うというご指摘はごもっともだが、実際の撮影結果との乖離が激しすぎて、MTFスコアの信頼性と再現性が疑わしいことだけは否定しようがない。ちなみに、その他のパラメータ、周辺減光や、歪曲収差、CAなどに関しては上記の影響を受けにくく、信頼できるデータだと思われる。

 

強引に結論
・LensTip.comやOpticallimitsなどのテストサイトは非常に有意義な情報を出しているが、ことMTFスコアに関しては疑って見るべき
・異なるレンズ同士のMTFスコアの大小を比較して、あっちがシャープだこっちがシャープだという安易な結論に至るべきではない。

MTFチャートは同一レンズの解像の傾向を見る参考情報程度に留めておくべき。
・特に異なるマウントのレンズ同士の比較は、センサーからして違うため、MTFスコアの大小の比較はまったく意味を成さない。
・解像力に関しては実際に写真を撮って比較・判断するのが一番。それをどこかでレポートしてくれたら最高

*1:他にもレビューサイトはたくさんある。

*2:ボディはX-T2、ガラス越しで撮影、Lightroomでディテールの強化を適応、プロファイルAdobe Colorその他何もいじらず

*3:XF10-24mmF4がダメという話ではまったくない。軽くてそこそこよく写る優れたズームだ。